論文博士は無くなるのか?論文博士(課程外博士)と課程博士の違いは?
博士号には二種類ある
ん?二種類?博士(理学)とか博士(工学)、博士(学術)とかいっぱいあるんでは?
今回は、専攻による博士号の種類ではなく、博士号の”取り方”に関する2つの種類について取り上げます。
1. 課程博士:課程(博士課程・博士後期課程等)修了によって取得する博士号
博士号の授与番号は、甲第123XXX号のように付番されます。
一般に博士号といった場合、断りがなければこちらに該当します。コース博士とも呼ばれることがあります。
2. 論文博士:課程への在籍に関わらず論文の提出のみにより取得する博士号
厳密には口頭試問なども博士号の取得に必要です。
博士号の授与番号は、乙123XXX号のように付番されます。
ただし、学位記自体には学位記番号が記載されており、甲乙の区別はありません。
車の免許証に関して、教習所で学びながら卒業検定などを通じて免許を取得する方法と試験場で一発試験で取得する方法の違いのようなものです。(余計にわかりにくくなったらすいません)
論文博士と博士論文
”論文博士”と”博士論文”は混合しやすいですが、博士論文は博士号を取るために提出する論文で、課程博士でも論文博士でも必要なものです。(一部の専攻では論文ではなく書物であったりもします)
博士論文 = 博士を取るために提出する論文
論文博士 = 論文審査を経て取得する博士号
混合しやすいので、本ページでは論文博士(乙)と記載します。ロンパクなどとも呼ばれます。
他にも早稲田大学、星薬科大学などでは論文博士ではなく、課程内または課程外と区別しているようです。
東京大学(論文博士の記載)
https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/admissions/adm-data/e10_01.html
早稲田大学(課程外博士の記載)
https://www.waseda.jp/fsci/students/dissertation/#anc_3
星薬科大学(課程外博士の記載)
http://polaris.hoshi.ac.jp/kyougaku/daigakuin/shakaijin/kateigai2.html
学位記の違い
私の大学(大学院)では、学位記に書かれた文言が、過程博士と論文博士では異なっていました。
1. 課程博士
・・・専攻の博士課程において所定の単位を取得し、学位論文の審査・・・
博士(理学)の学位を授ける
といったことが証書に書かれていました。
2. 論文博士
一方、論文博士では、
・・・学位論文を提出し、審査及び試験に合格し・・・
・・・博士(理学)の学位を授ける
といったことが証書に書かれていました。
それぞれ短い言葉の中ですが、正確に博士号を得たプロセスを区別しています。
なので、甲乙の記載はありませんが、学位記を見れば課程博士か論文博士(乙)かがわかる内容になっています。
(※他大学の状況がわかりませんので全ての大学に当てはまるとは限りません)
私は、本ブログのタイトルにもあるように、論文博士(乙)で学位を取得しました。
論文の中身は企業在籍中に実施・発表した研究内容のみです。博士号の研究テーマに関して大学で実験したことはありません。大学に訪問したのも、挨拶、事前審査、本審査、公聴会、学位記授与、他で8回ぐらいでした。
学位取得までの流れは以下の記事をご覧ください。
論文博士(乙)は無くなるのか?
2005年6月に行われた文部科学省の中央教育審議会「新時代の大学院教育 – 国際的に魅力ある大学院教育の構築に向けて – 」の中で、「論文博士」について、
「諸外国の制度と比べ日本独特の論文博士は、将来的には廃止する方向で検討すべきではないかという意見も出されている」
と述べる一方、反対意見も紹介した上で、
「論文博士については、学位に関する国際的な考え方や課程制大学院制度の趣旨などを念頭にその在り方を検討していくことが適当である」
と報告されました。
二種類の博士があると言いましたが、それは日本国内のことで世界的にはほとんどの国が課程博士のみで論文博士(乙)は存在していません。日本だけでそんなガラパゴスの制度があっていいのか?という考え方は当然あるわけです。
2003年の中央教育審議会ではさらに強いメッセージでした。
なお、学位の国際的な通用性、信頼性の向上を図る観点から、現行の「論文博士」制度については、課程制大学院の実質化が図られ、その定着が広く認められる状況を前提として、将来的には、廃止する方向で検討することが適当である。
ただし、廃止に至るまでの条件整備や期間についての検討とともに、相当の研究経験を有している社会人等に対して大学院において一定の体系的な教育を提供し、学位の授与に結び付ける仕組み等についての十分な検討が併せて必要である。
文部科学省ホームページ:中央教育審議会(第31回)
資料3 理工農系大学院の目的とそれに沿った教育研究の在り方について -国際的な水準における理工農系大学院の確立を目指して-議事録「(5)論文博士制度について」より
現状は、論文博士(乙)を文部科学省は黙認している状況(もちろん正しく認められた制度ですよ)ではありますが、確実に廃止される方向に向かっていくと思います。
大学としてもこのような状況ですので、安易に論文博士(乙)を出さないことが考えられます。文科省に逆らう形になりかねません。特に国立大学は。
そんな状況でしたので、私が論文博士(乙)を取得できたことは大変幸運なことだと思っています。大学や主査、副査の先生方には大変感謝しています。
論文博士(乙)は廃止される方向かもしれませんが、現時点で存在している制度ではあります。もし、あなたが論文博士(乙)の取得を目指しているのであれば、一刻も早く行動することをオススメします。
社会人に対して博士課程の受け入れは広がるかも
その一方で、先の中央教育審議会のメッセージでも
相当の研究経験を有している社会人等に対して大学院において一定の体系的な教育を提供し、
とあります。このことは各大学が今まで以上に社会人に対して、門戸を広げ、博士を取りやすい環境にしていくことが示唆されています。
現在でも、社会人向けにプログラムを用意している大学は多くありますので、制度が整うのを待つのではなく、自分から動いてみてはいかがでしょうか?
社会人向けのプログラムは以下の記事です。
ディスカッション
コメント一覧
相当の研究経験を有している社会人等に対して大学院において一定の体系的な教育を提供し、といわれても、現実に仕事をしていたらなかなかですよね。
私も結果的に論博が取れて良かったけれど、家庭白紙を取る時間的、経済的余裕は多くの場合、お上が言うほど簡単には取れませんよね。
相変わらず、素人(文科省)がプロ(大学)を支配する、信じがたい構造が続いていると感じます。
コメントありがとうございます。
社会人になって家庭を持つと時間も経済的余裕もなくなることも多いですね。
会社としても従業員を遊ばせる余裕がないわけですし、文部科学省も柔軟性を持っていただきたいものです。
いつも大変楽しく拝読しています。私は母校の博士課程に社会人入学をしました。指導教官の理解もあり大変めぐまれているのですが問題があります。いまついている職業が学生時代の学問分野、つまり今所属している学問領域と全く関係がないのです。仕事で学会発表しておりますがいま所属している大学院とはまったく関係ないです。安易に博士号取得を考えた自分を恥じております、退学も考えているのですが、職場の上司が博士はとっておくようにといわれて困っております。(私は文系ですが、工学系の職場におります) そこで論文博士をだせないかと今考えております。いろいろご相談にのっていただけたら嬉しいです。
コメントありがとうございます。
注意点ですが、日本では二重学籍が認められていません。
現在所属の大学に籍を残したまま、または休学や満期退学の状態で原則として論文博士を含め他大学への在籍は不可能だと思います。
頂いたコメントからは、私個人としては現在所属の大学で博士号を得られることがベターかと思いますが、
文系の博士号は専攻によってはかなりハードルが高いと認識しております。
もし、その分野で博士を目指さないのであれば二重在籍の関係で退学が必要となります。
大学に在籍しながら取得を進め、その間職場での業績を積み重ねるのが良いかと思われますがいかがでしょうか。
メールアドレス宛にメールをお送りいたしますので、詳細をご記載いただければ、また違ったコメントができるかもしれません。
大変だとは思いますがご健闘をお祈りいたします。
国家公務員の場合、論文博士を取得しても1号俸あがるだけで殆ど努力に見合わない。過程博士の場合は28歳だけれど100%経験日数に算定され、博士卒と履歴になる。論文博士は博士卒にはならない。
論文博士の場合、とにかくコネが大事でコネ、つまり指導教官さえ見つければ論文はそこそこあるはずだから落ちるということはない。予想外だったのは、語学(英語、ドイツ語)と専門の試験もあったことです。口頭試問はなかった。
金は主査に30万、副査に20万/人(5人ゆえ計100万)と大学に審査請求代として40万払わされたこと。全部で200万近い。また大学に訪れるたびに5000円くらいの菓子を持参したので、博士号は金次第と思う。決して能力次第ではない。
確かに足の裏の米粒かもしれないが相当高くつく米粒と思う次第である。
コメントありがとうございました。
私も博士は取りましたが給与等は何も変わっておりません。
新卒時の差額分上げてほしいと思いますが。
いつ頃学位は取られましたか?
昔はお金を包むということもあったと聞いたことがありますが最近でも行われることがあるのでしょうか?
論文博士はコネが重要である点はその通りだと思います。
1998年論文にて学位取得しました。国立大学で過去から博士課程のある大学です。私の大学では謝礼は受け取らないのが慣例。その時周りでは、審査料なる謝礼は最難関私立大学では150万円が相場とのこと。忖度で汚れた博士もありピンキリです。取得後、その碩学にして、生きている間どれだけ社会貢献できるか?の考え方が大切だと思います。
地方国立大学大学院修了者です。
学位記には、1990年代ですが、甲乙はっきり書かれていました。
そもそも別番号体系でした。
乙はなくそうと、大学院重点化の頃から言われています。
満期退学=単位取得満期退学の状態であれば、その後、どこの他大学に在籍しようが、論博を取ろうが、二重学籍にはなりませんよ。いったん「退学」しているので、その状態・時点では「在籍」にはなりません。
ちなみに、博士号は原則いくつ取っても良いので、文系の博士号を取得してから、工学系の博士号を取得しても問題ありません。
但し、大学の内規によっては、同分野の複数学位取得を認めていない場合もあるので、その辺は調べておいた方が良いと思います。
また論文博士の廃止についてですが、大学設置基準の改正法によって、今は実務家系の「職業博士」が重点化されてきています。企業の実務家は、働きながら課程博士を目指すことは、なかなかに大変ですので、論文博士号(乙号)という制度を廃止することは、おそらく当面ないだろうと思います。
論博の利点ですが、文系では論博=単著出版ですし、理系では論博=国際的有名学術誌掲載という基準に多くの大学で条件化されていると思いますので、この条件の無い課程博よりも大学就職時に有利に働く可能性もあります。上記の条件は、業績として特別に優れた内容でないと、そもそも審査を通らないケースが一般的だと思いますので、業績の優秀性で判断する大学などでは、下手な課程博よりも有利かもしれません。但し、採用の現状では優秀性や実力が不問である場合が多く、その辺が問題です。