生物・バイオ分野の大学(アカデミック)研究と企業研究の違い

2018年12月28日

就職活動のリクルーターなどで学生と接すると、大学の研究と会社の研究開発の違いがよくわからないという質問を受けることがよくあります。

企業のバイオ研究者として10年余り経験しましたので、おおまかなイメージを伝えたいと思います。(あくまでも私個人の所管で、分野や会社により大きく異なります。)

仕事には大きく分けて、0を1にする仕事、1を9にする仕事、9を10にする仕事というものがあると言われています。

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アカデミックは0を1にする仕事

企業の立場で大学など研究機関に期待することは0を1にする仕事だと思います。

アカデミック研究のモチベーションは人類全体の知識の空白地帯を埋めていくといったものです。

ある特殊な環境でしか見られない。

収率がとても低い。

などなど多少の再現性の悪さは置いておいても新奇性の高い知見の創出が求められます。

企業の研究開発の大半は9を10にする仕事

企業全体としては9を10にする仕事が多いと思います。

企業研究のモチベーションは、

・ユーザーや市場の要求や理想を満たす商品やサービスを作り出す。

・他社に先駆けて、また差別化して競争に打ち勝ち、利益を得る。

と言ったことです。

ユーザーや他社の存在が大きく異なることになります。

したがって商品を世に送り出したあともブラッシュアップをしていくことが必要になります。

車や家電が毎年のようにマイナーチェンジを繰り返すように、

新しいユーザーへの拡大を狙い、他社と差別化できるアピールポイントを追求します。

企業における研究開発者の多くはこの役割を担います。

企業の研究開発の一部は1を9にする仕事

1を9にする研究というのが、博士号を持つ企業研究者の役割かなと思っています。

この時に目指すべき”9”はもちろん他社が保有しない商品です。

1を9にする段階はいわゆる魔の川、死の谷、ダーウィンの海だったり事業化への障壁が多く存在する過程で、テーマが潰されることも多いです。

これを乗り越えると、他社にはない新しい武器を持つことができます。

注意して欲しいのは、これらの仕事や役割でどれが簡単と言うものではなく、そしてどれも重要だということです。

感染症Xと遺伝子a

ここでは一例としてウイルスが感染症Xを引き起こす例について考えたいと思います。

大学の研究

感染症Xの発症が確認されたが、原因がわからない。

この原因を明らかにしたい。

これが多くの場合の研究のスタートでありモチベーションになると思います。

そこで研究をすすめ、例えば以下のことを明らかにします。

・感染症Xはウイルスが媒介する。(大学A)

・このウイルスはウイルスXである。(研究所B)

・ウイルスXは遺伝子aを持つ。(大学C)

・ウイルスXは遺伝子bを持つ。(研究所D)

・ウイルスXの侵入はタンパク質Kとの相互作用によるメカニズムだ。(大学E)

などなど様々な切り口から研究が進められ、いままでわからなかった”0”からさまざまな”1”が見出されていきます。

それらが合わさって知識の空白が埋められていくわけです。

企業の研究開発

感染症Xが流行している。(マーケットがある)

感染症Xの診断が必要である。(事業として成り立つ)

診断方法を確立しよう。(利益を出そう)

カッコ内のコメントは少々腹黒い感じもしますが、そのような側面があることも事実だと思います。

ここで研究開発部や研究企画部は、学会や論文などから診断方法の目星をつけます。今回は、大学Cで明らかになった遺伝子aに注目します。対象となる”1”を選びます。

このタイミングで大学Cと共同研究を締結します。感染症Xの診断に遺伝子aを用いる特許を使用する。あるいは特許を共同で出願します。

そして、プライマーの設計だったり、測定条件の検討などを経て、

なんとか一定の感度や特異度をもった遺伝子検査条件が設定されます。

“9”が達成されるわけです。

そこからさらに最適化や、量産条件の確立、各種データを取得し、感染症Xの遺伝子検査キットがリリースされます。

しかしながら他社は、研究所Dで明らかになった遺伝子bに関する商品開発を進めていて、そちらの方が性能が良いかもしれません。

その性能に追いつき追い越すために、また商品のブラッシュアップが行われるわけです。

実際には、1から9にする仕事の中であってもさらに”0から1にする段階”も含まれていますのでそんなに線引きができるわけではありません。

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